Topics なぜ細菌なのか?
細菌というと病原菌やバイ菌(バイ菌の「バイ」はカビの意味)のイメージがありますが、納豆やキムチ、ヨーグルトなどの発酵に使われる「良い細菌」が存在します。これらの細菌は食材の風味や消化性を高め、またビタミンなど人に必須な成分を作り出しています。細菌は生物の中で最も小さい細胞(納豆菌の場合、直径0.8ミクロン、長さ2ミクロンほどの長細い形)で、細胞核(染色体を囲む細胞内器官)を持たない原始的な生物ですが、発酵食品だけでなくアミノ酸発酵など特定物質の製造にも使われています。
発酵や醸造に利用される生物には、細菌以外にももう少し大きな単細胞真核生物もいます。アルコールや醤油、味噌などの発酵に使われる酵母や麹菌が身近です。とくに酵母はビールなどの発酵の際に副生物として得られますから、酵母エキスとして調味や健康補助食品となっています。最近健康食品としてよく目にする微細藻類も単細胞真核生物で、光合成で増殖するのが特徴です。
「微生物」という言葉には、一般に細菌から酵母、微細藻類など大きな生物も含みます。私たちは、以下の理由で微生物の中でもとくに細菌に着目しています。
第一に増殖速度です。細胞が1回分裂する時間を倍加時間と言いますが、納豆菌や大腸菌の倍加時間は30分程度なのに対し、酵母では2時間程度です(納豆菌の4倍)。細胞の容積は納豆菌で約5μm3、ビール酵母で約125μm3です(納豆菌の25倍)。計算すると、酵母が1回分裂する間に納豆菌は8回分裂し、細胞容積合計は酵母の5倍強になることがわかります。増殖速度は、生産コストやエネルギー投入時間に影響しますので、細菌の高い増殖速度は魅力的です。
第二に分裂回数の限界です。細菌は染色体が環状(輪っか)であるのに対し、酵母など真核生物では線状(ひも)です。少々分かりにくいかもしれませんが、この違いは分裂回数に影響します。細菌は何回分裂しても染色体はそのままですが、真核生物では分裂(染色体複製)するごとに染色体の末端が短くなっていきます。これにより酵母の分裂回数は25回くらいが上限になります。分裂が理論上永久である細菌はやはり有利であると言えます。
細菌は生産効率の観点からは非常に魅力的ですが、一部の光合成細菌以外は微細藻類のように二酸化炭素を固定できません。地球環境の改善や化石燃料の問題などを考えた場合、これらの生物をタンパク質源として上手に組み合わせ、利用していくことが大切だと考えています。
代表取締役 大橋由明