Topics なぜ納豆菌なのか?

納豆菌は、学名をBacillus subtilis var. nattoといい、枯草菌(Bacillus subtilis)の一種です。枯草菌は芽胞形成グラム陽性細菌のモデル生物として、増殖や細胞分化(芽胞形成)の分子メカニズムが最もよくわかっている細菌です。土壌や植物に普遍的に存在しており、アミラーゼ、プロテアーゼ、ヘミセルラーゼなど環境バイオマスを分解、利用する酵素を多く持つことから、食品副生物を栄養源にする能力に長けています。またグラム陽性菌であることから、エンドトキシン(内毒素)を含みません。

納豆菌は納豆の製造(とくに糸引き納豆)に利用されることはよく知られています。納豆発酵の習慣は、日本だけでなく、ネパールやブータン、タイなど東南アジア圏やアフリカに見られます。日本では、室町時代のおとぎ草子にも糸引き納豆の記述があり、相当昔から食されていたことがわかっています。

納豆は、煮大豆の表面に納豆菌の芽胞(植物でいう種のようなもの)をふりかけ、人肌より少し高い温度で20時間ほど保温することで得られます。煮豆表面では、納豆菌は芽胞の発芽→細胞の増殖→芽胞の形成というプロセスを経て発酵を進めます。この間に大豆タンパク質は納豆菌プロテアーゼで分解され、納豆菌の栄養源になるだけでなく、大豆自体の消化性が良くなります。また芽胞形成が始まるとγ-ポリグルタミン酸(ネバネバの主成分)や褐色の色素成分、特有の臭い成分を作り、いわゆる納豆に変貌します。

食品として食べられてきた細菌には、納豆菌の他にヨーグルトや漬物製造に使われる乳酸菌(乳酸菌は多くの乳酸発酵菌の総称)があります。しかし、乳酸菌は納豆菌に比べて偏食で、かつ多くの乳酸菌は栄養代謝が不完全なのでお互い助け合って増殖します(なので、ヨーグルトには複数の乳酸菌が含まれるのです)。つまり、乳酸菌は納豆菌ほど幅広い原料を栄養源にできませんので、効率よく培養して菌体を得るには、納豆菌の方が適していると言えます。

昨今のカーボンニュートラルの議論から、光合成細菌も候補の一つです。とくにシアノバクテリア(藍色細菌)と呼ばれる細菌は光合成能を持つこと、健康食品(スピルリナ)として摂取されていることから、可能性があります。しかし、倍加時間(1回細胞分裂する時間)が数時間と長く、納豆菌(培地や温度によるが15〜45分)に比べて生産効率が非常に低くなってしまいます。また、日光の照射を考慮すると培養槽を大型しにくい(容積が増えると相対的に光を照射する表面積の比率が減るから)のも穀物に匹敵する大量生産を阻んでいます。

このように、食品副生物から発酵食品細菌を作るのに適しているのは納豆菌であることから、私たちは納豆菌を次世代穀物の候補にしたわけです。

代表取締役 大橋由明